第6章 5日目
今日は傘を持ちながらベンチに座っている。
傘にぶつかる雨の音に合わせてまれに鮮やかなオレンジが散る。
私は香りを惜しむことなく潔く散っていくこの姿も好きだ。
だから、散る瞬間も見ていたい。
「だいぶ散りそうだな。」
頷くだけで1秒でも長く金木犀が散る姿を見ることに集中する。
きっと今日でだいぶ散ってしまうだろう。
雨が降らなくても金木犀の命は短い。
1週間ほどで散ってしまう。
今日で5日目。
毎年見ている光景だか美しい反面悲しい。
ここにくるのは明日で最後かな。
今日はいつにも増して沈黙の時間が多いまま1時間が経った。
「また明日な。」
もはやこの言葉が普通になりかけていることに思わず笑いそうになった。