第3章 生クリームと刻んだチョコを混ぜ合わせます
「よし、じゃあ冷蔵庫に入れたら30分くらい放置ね。ちょっと休憩しよ」
「はい」
「何か飲もうか。紅茶か緑茶かコーヒー…ジュースとかあったかなあ」
「有さんのオススメあります?それがいいです」
「おっ、じゃあ、おフランスのティー飲んじゃう?」
「はい、それで」
私はお茶を淹れると、市販のお菓子と一緒に秋也くんの前に出した。
「可愛いカップですね」
「でしょ?気に入ってるんだよね。久しぶりに使ったけど」
「旦那さんと使わないんですか?」
「あの人はカップが可愛いとかどうでもいいから。どでかいマグカップでコーヒー飲んでるわよ、あはは」
「そうなんですか。…でも、有さんってやっぱりセンスいいですよね。このクッションも、すごく細かい花の刺繍」
秋也くんはソファの隅っこに添えられたクッションに目をやった。
「それはね、この家に越して来た時に買ったんだわ。あの頃は、なんでも気合い入れて選んでたなあ」
可愛い奥さんにあこがれて、可愛いものに囲まれて暮らしたくて、色々努力してきたっけ。料理は趣味だったし。編み物もやった。
でもいつからかなあ、手を抜くようになっちゃったの。私が「可愛いカップでしょ?」って言っても夫は「ああ」しか言わないし。夫の他に、誰が見てくれるでもないし。
今となってはウニクロのジーンズにプルオーバーでお客さんを迎えるようになってしまった…。
紅茶の水面を眺めながら物思いに耽る私を、秋也くんはじっと見つめていた。私はそれには気づいてなかったけれど。
やがて秋也くんは何事か言おうとしたのか、薄く口を開いた。けれどその時
ピピピピ…
とタイマーが鳴ったので、私達2人は現実に引き戻されたのだった。