第5章 理由その5
「だったらどうなの? マイトさんはヒーローなんだっけ。私を捕まえるの? それはお手柄になるわね。…でもあなたみたいは細身の男性に私が捕まえられるかしら」
一度は恋した相手だけれど、やっぱり彼は違った。
「マイトさんに捕まる訳にはいかないわ」
私にはオールマイトしかいない。彼に追い掛けて欲しくてヴィランになったのだから。
「もしマイトさんが私を捕まえると言うなら…私も容赦しない」
もう、オールマイト以外はいらない。
あきらかに戦う姿勢になった私に対してマイトさんは腕を下ろしたままだ。
ここに来てマイトさんの個性を知らない事に苛立つ。もし私に対して有利な個性だったら? 勝利を確信したからこそこうして挑んで来たのだとしたら?
ぎり、と足元の砂を踏む。いざとなったら海風と砂塵を載せた蹴りをするだけだ。
しかしマイトさんは動かなかった。
唇を結んだまま落としていた視線を私に向け、警戒して体を沈ませる私に静かに口を開く。
「私も本当の事を言おう。」
「ヒーローだったって事以上にまだあるの?」
「……」
嫌味を言う私に頷き、その真剣な眼差しで私を射抜いた。
「私はオールマイトだ」
「は?」
マイトさんがヒーローだと伝えられた時以上に、私の目が見開かれたと思う。
「な、なに言ってるの? マイトさんがオールマイト? 意味分からないんだけど。だって全然違うじゃない、姿も髪型も」
声も、と言い掛けて気付く。マイトさんの声を聞いた時に一瞬感じた既視感。
私が口を開く前に目の前のマイトさんが急に大きくなった気がした。ぱちぱちと目を瞬かせている間に巨躯な影が私の目の前に現れた。
「私が来た、って言った方がいいかな」
太くなった首と肩周り、筋骨隆々なその体躯、ぴんと張る前髪。それらは全部見覚えがあり、私が欲しくて欲しくて堪らなかった彼のシルエット。
「…オールマイト」
「そうだ」
静かにそう言う彼の口から出た声は、気付いた今なら確かに分かる。
最高のヒーロー・オールマイト。
私が追いかけて欲しかったその人だ。