第2章 2部
「っ、遅くなっちゃった…」
カミナシティの小道を私は駆ける。約束の時間はとうに過ぎていた。
小道を走り抜けた場所にあるカミナシティ中心の公園。建物の影を抜け、目の前が明るく開けた。
綺麗に整備された公園の中、『彼』とよく座ったベンチを横切る。何ヶ所かに植樹された園木のうちの一本に寄り掛る人影が見えた。
「ごめん待った!?」
勢い良く駆けた足でたたらを踏む。目の前の人影の目元がきらりと太陽に反射した。
「結構待ちましたがまだ時間はあります。大丈夫ですよ」
「ごめんね! 退屈してたでしょ? …何それ?」
「参考書です」
「量子力学…ごめんわかんない」
「ロシウさんに読んでおきなさいと言われたので」
「ふうん。ほんと、ギンブレーってばロシウの事好きだねえ」
「……」
目の前の彼…ギンブレーが無言になり、持っていた本を閉じる。
「さあ、行きましょうか」
「ん」
そうして私と隣に並ぶギンブレーは、学校に向かうのだった。
カミナが居なくなってから二年が過ぎようとしていた。という事はカミナが『逝って』しまってから三年が経っている事になる。
絶望で過ごした三年前。希望の再会をした二年前。そしてまた会う約束をした二年前。
あれから二年。「また帰って来る」と言って去って行ったカミナは未だに現れない。
カミナは元気だろうか。今頃どこに居るのだろうか。それともまさか…と思い悩む日もある。
「さん?」
隣に並んで歩くギンブレーが私の名を呼んだ。うっかり物思いに耽ってしまい気付かず俯いていたらしい。
慌てて見上げると、先程の様にギンブレーの眼鏡が陽の光に反射している。
「…ギンブレー、また目が悪くなった?」
「しょうがないじゃないですか。それだけせっせと勉学に励んでいる証拠です」
私と殆ど年齢が変わらない癖にとっくに追い越された身長のギンブレーが、くいと眼鏡を指先で持ち上げた。
「さあさん。そろそろ学校に到着しないと遅刻です。私は遅刻なんて真っ平ですから」
「うん。大丈夫、行こう」
私は頷き、歩くスピードを上げる。それを見てギンブレーも歩幅を少し大きくした。今まで私の速度に合わせてくれていたのだろう。
いっそ冷徹に見える印象と態度をするギンブレー。
そのギンブレーが案外優しいのは皆は知らない。