第1章 1部
一年前、カミナがチミルフの凶行により倒れた後の大グレン団は散々だった。
その当時は皆がどん底で、弟分のシモンは勿論、ヨーコやキタン、飄々として見えていたリーロン、まだ幼いロシウ達。
そして私も。
けれど螺旋王の娘であるニアに出会い、私達は救われた。
なによりシモンに笑顔が戻り、大グレン団の士気も戻った。
ヨーコも少なくとも表面上は元気を取り戻していた。
私も、何とかではあるが生活出来る程度には立ち直れたと思っていた。
だけれど思う。
私のこの胸にぽかりと空いた穴は、誰も埋められない。
あの、彼以外には。
「…着いた」
思わず声が吐き出される。
上りきった小山の頂上。目の前に突き立つ長刀。戒めの様に結び付けられている真紅のマントが風に靡いている。
ここだ、この下にカミナが眠っているのだ。
先日一周忌が行われたばかりだからか足元には様々な花束が置かれていた。そこに持っていた花束を置き足す。
「…カミナ」
来たよ、と心の中で声を掛けた。
(一年間…来れなかったよ)
実はここに来るのは初めてだった。
シモンやヨーコはテッペリン戦の時や陥落後も度々来ていたようだったが、私は足を向けられなかった。
一年間無我夢中だった、というのは言い訳だろう。
(初めて来たから…どうしても一人で来たかったんだ)
一周忌も、友人の誘いも避けて。
(…私ね、カミナにどうしても言いたい事があるの)
生きてる時に言えなかった言葉。
「カミナ」
大グレン団リーダーで、尊敬していて、憧れだった。
(…私…、カミナが好きでした)
音の無い想いが風に乗る。
「よう」
頭を下げ祈る私に静寂を破る声が掛かった。
(…先客がいたのか)
一人だと思ったのに。でももう良い。私は言えたから。
「じゃねェか。久々だな」
「……」
誰だろうかと振り返る。
――と、同時に耳を疑う。
懐かしい声。何故どうして。今。
「…っ!?」
急いで振り返った先、逆光に隠れる顔と懐かしいシルエット。
「…あ、え…っ…!?」
ツンツンの髪に剥き出しの肩。逆光でも分かるその刺青。
「……!」
それは他でもない。あの。
「…って、あれ。お前、俺が見えるのか?」
きょとんと首を傾げるシルエットが涙で滲む。
「―――カミナ」
そう。それは間違いなく、一年前に散ったはずの大グレン団リーダー、カミナだった。