第4章 差し出した手(戸惑いがちに君は握ってくれた)【梵天丸】↑後
冴の言葉に、梵天丸は一瞬頭が真っ白になり、悲しそうに俯いた。それに反して冴は顔を上げる。
「だから」
その芯の通った声に惹かれるように、梵天丸も顔を上げる。
「こんどはぼんてんまるが〝こっち〟に来て?」
目に映ったのは、部屋の外から手を差し伸べ微笑む冴の姿。
〝こっち〟ってどっち? そこ? そこは、そとだ。 いやだ。 こわい。 こわい。
梵天丸は再び俯き、ぎゅっと拳を握りしめた。
こわい こわい こわい
でも―――
梵天丸が、ゆっくり、ゆっくりと顔を上げる。そこには先ほどと変わらぬままの冴の姿。差しのべられた手が、優しい笑顔が、梵天丸を待っている。
いきたい。
あそこへ。冴のところへ。
梵天丸が重く立ち上がり、のろのろと歩き出す。時折ふと立ち止まるが、無意識なのだろう。またふと歩き出す。
進んでは止まり、進んでは止まりの繰り返し。だが、決して後ろへ退きはしなかった。
そして。
おそるおそる、その手をとった。
視界が一気に広く、明るくなる。左目に差し込んだ太陽が急な刺激を与え、梵天丸は立ち眩んだ。
「ぼん?」
2人とも小さいとはいえ、幼い子どもが自分と同じくらいの身体を支えられるわけもなく。
「きゃっ!」
「うわっ!」
2人して縁側から庭の地面の上に落下した。
「いたた…」
「だっ、だいじょうぶか!?冴!」
「う、うん、だいじょうぶ。…うん」
下敷きになってしまった冴は痛みで少し涙目だったが、それでも嬉しそうに笑った。
ぼんてんまるが、ここにいる。
冴は痛みなど忘れたかのように満面の笑みで、梵天丸もまた、どこか吹っ切れたように微笑んだ。
そとにでるなんて、こんなにかんたんなことだったんだ。
2人は、大きな物音を聞いた小十郎が駆けつけて来るまでそこに座り込んでいた。その時小十郎は、梵天丸が外に出ていることに大層驚き、また、滅多に見せない柔らかな笑みを見せたという。