第7章 7
「ん…。」
なんだろう、コーヒーの匂いと豆を挽く心地良い音…
そういえば…彼もよくコーヒーを淹れてくれた。
彼と暮らしてから初めて口にしたコーヒー。
苦くて顔をしかめた私を見て
彼は困ったように笑いながら…私のカップに蜂蜜とミルクを入れてくれた。
甘くて幸せな懐かしい味に誘われるように瞳を開く。
…
「えっ…?」
目の前に広がる壁紙に見覚えがない。
な、なんで!?
まだ意識がはっきりとしていない私は、驚いて横になっていたベッドから落ちてしまう。
「痛いっ!」
落ちた衝撃で頭を打ってしまい大きな音が立つ。
「わーお、びっくりしたー」
すると不意に頭上から聞き覚えのある声。
声がした方向に振り返ると…
「アーサー…?」
「気持ちよさそーに眠ってたねー。おはようアナスタシア。
頭、痛くないー?」
ぶつけた痛みのお陰で意識がはっきりする。
「…そっか、私あのまま寝ちゃったんだ。」
アーサーに膝枕をしていて、膝の上で眠ってしまった彼につられて私も眠りに落ちたことを思い出す。
「ええ、平気。ちょっとぶつけただけだから…
それよりもアーサーのベッドを占領しちゃってごめんなさい…疲れていたんじゃないの?」
アーサーが昨夜から眠っていないと言っていたことを思い出して
申し訳ない気持ちが込み上げる。
「んー?大丈夫だよ。アナスタシアが膝枕をしてくれたお陰で、俺すごーくスッキリしてるからー。てゆーか実は俺もついさっき目が覚めたんだよねー」
そう呟くアーサー。
見ると、彼の髪には少しだけ寝癖がついていた。
「ふふっ、ほんとだ。アーサー、髪に寝癖がついているよ?」
珍しい姿に思わず微笑んでしまう。
「うわー、本当だ…。サイアク、格好悪いところ見られちゃった」
鏡を見て寝癖に気づいた様子のアーサーが呟く。
「大丈夫。他の人には言わないから。アーサー、ちょっと可愛い。」
私が発した言葉に何故か唇を尖らせるアーサー。
「…かわいーって言われて喜ぶ男は居ないからね?
そーんなことを言う子にはコレ、あげないよ?」
アーサーが机の上に置かれたサイフォンを指差す。
サイフォンからはコーヒーのいい香りが漂ってくる。