第9章 9話
例の最奥に位置している部屋に、人目につかぬよう今度は周囲を何度も見渡しながら部屋へと入る。
爆豪は授業中の時並に静かだった。後ろから着いて来ているときは、いつもの様にポケットに手を突っ込みながら歩いていたが。
いつもとは打って変わったその行動に彩夏は驚きを隠せなかった。
部屋に入ると直ぐに爆豪勝己にかけた個性を解き、部屋にある高級感漂う革のソファへと案内する。
(彩夏)
「そこ、座って。コーヒーか、紅茶どっち飲む?」
爆豪は一瞬、驚いた顔をしたが直ぐに、いつものしかめっ面に戻し、「コーヒー、ブラック」と呟いた。
簡易的なキッチンのそばに立ち、彩夏は爆豪と自分のお茶の用意をする。
どちらとも何も話さず、部屋には電気ケトルで沸騰する水のポコポコという音だけが響いていた。
自身のマグカップと爆豪用のマグはなかったため、急遽個性を使って同じようなものを創造する。
上手くできた、と顔を弛めた瞬間手からマグカップが離れ、床に叩きつけられる。
ガシャンという音に反応した爆豪は、思いっきり振り返り首を痛そうに触る。
(爆豪)
「…なした」
(彩夏)
「ごめん、マグが1つ足りないから創造したんだけど、手から落ちちゃった。すぐ片付けるから座ってて。」
今にも立ちそうな爆豪を手で制し、彩夏は片付ける体制に入る。しかし、逆に爆豪に制されてしまい、驚く彩夏。
(爆豪)
「座って待ってろ、俺がやる。」
(彩夏)
「でもまだ勝己は試合残ってるから。怪我したら大変だから私が─────」
(爆豪)
「あ“?」
(彩夏)
「…分かった。お願いします、ありがとう。」
爆豪は直ぐに片付けを済まし、彩夏と自分の前にマグを置き、彩夏が話し始めるのを待った。