第1章 そこにいるのは/黒尾
「眠い…」
「まだ授業前だぞー」
「眠いのは眠いのー…」
俺の前の席には学年主席の女子がいる。が、居眠り常習犯だ。それもわざと寝てるのではなくちゃんと授業を聞こうとしてるのにも関わらずいつの間にか寝てるのだ。
「飯ちゃんと食ってるか?」
「食べてる、今日もおにぎり2つ食べたもん」
「あとは?」
「お弁当のおかずの残り」
別に日中眠いわけではなく、起きていられる時も勿論ある。だから今も起きてるから話すことができるわけだ。
「夜更かしは?」
「12時には寝てるもん」
「起きたのは?」
「6時50分くらい?」
普通の食事量に普通の睡眠時間、なのに授業中居眠りしてしまうという謎だ。
だが、ちゃっかりノートは取れているあたりさすが学年主席と言うべきなのかもしれない。
「ねぇ、黒尾くん…」
「なんだ?」
「身長ほしい」
「やれねぇな、さすがに。物理的に無理だろ」
「むぅ、ケチ」
身長が150にも満たない束間ちゃんは毎日ではないが、割と身長の話をしてくる。女の子は小さいのも可愛いと思うが、俺との身長差だけでも40㎝もあるもんだから席から立ってしまえばその差は浮き彫りになる。
「ケチで結構、お前彼氏が縮んでもいいのか?」
「多少縮んでも影響ないくせに」
「お前なぁ…」
ちなみにこれでも彼女である。告ってみれば、2日の期間をおいてから了承の返事をもらえた。かれこれ2年以上続いているが、部活がないときは放課後を過ごすことも、休日に遊ぶこともある。試合の時はなんだかんだ言いつつ応援に来てくれる。それに部活に対して文句も言わないのだ。あとちゃっかりやることもしっかりやってる。
「お前らそれでよく付き合ってんなー?」
「何を言うか、やっくん。これでも仲良しだぞ」
「バレーボールには負けるけどねー」
「そこは仲良しって言っとけよー」
まぁ、こんな感じで仲は良好のはずだ。