第1章 鬼龍/攻防戦
まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。
セックスは基本仕事でのみの奴とは仕事以外では絶対にしねぇ。だから頼まれてもそっから延長戦を仕事が終わってからはしない。飲みに行くくらいはするが、縺れ込ませない。あと、束間のケースは今回が初めてだが…多分普通ならスタッフに後を任せると思う。
ん? じゃあ、なんで俺は束間を連れて帰った?
「あ、言いたくなかったら別に…」
「いや、基本仕事の奴らは仕事以外では繋がらねぇよ。仕事以外なら飲みに行くまでだな。そうなる前に打ち切って帰ることもザラだし」
「そ、そうなの?」
「あと…束間みてぇなことがあっても連れて帰らねぇと思う。逆に聞くけどよ、束間は今回みたいに連れてこられたことはあんのか?」
束間に聞いてみたが、顔を赤くしてすげぇ首を振られた。
「ないっ、連れていかれるなんてないっ。今までもスタッフさんに予め頼んで終わったら連れ出してもらってたし…動けなくなっても、動けるまで休ませてもらってから帰ってたから…」
つまり、それなりに自衛はしてたわけか。となると、なんで今回は俺に連れてこられた?
「今回は…鬼龍くんに連れていかれる方が早かったし…その…鬼龍くん、優しいから…」
「束間」
「な、なに?」
「そういうのは男の根城に来て言うな? まぁ、今回は俺に責任があるからなんだが…」
仕事でもそうでなくても、束間は清純だった。話すとよく人柄がわかる。なんで、この業界に入ったのか不思議なくらいだ。
それでも、束間にそんなこと言われたら男はきっと勘違いしてしまうだろうな。
「……鬼龍くんじゃなきゃ、来てないと思う」
「………言うなって言ったばかりだろう。大丈夫か?」
「大丈夫だよ? 流石にわかってるつもり。でも…」
「ん?」
「鬼龍くんは、会って間もない子は嫌?」
束間は最後の最後でしょうもないことを聞いて来た。まあ、たしかに今日初めて仕事しただけでこうなるのは早すぎる。でも、そうなったのはきっと仕事と仕事外の顔を知ってしまったからなんだろうな。きっと束間もそうだ。
そのまま俺らはキスをした。