第5章 【裏】表現/斎宮
「あ? また海外の仕事だと?」
「あぁ、ちょうどウィーンの劇場から依頼があってね」
「ふーん?」
たまたま仕事先で鬼龍に会い、少し立ち話をしていた。
「そういや、嫁さんの方はどうすんだよ?」
「一緒に行くよ。ゆめもちょうどコンクール前だからね」
「お前さ、なんだかんだ愛妻家だよな」
「…君に言われるとなんか複雑だな」
「なんでだよ」
鬼龍、君もたいがい愛妻家だろう。そうでなければ水瀬があれほど輝かないわけないだろう。
「そうなると、お前またドレス作りか? よく仕事と両立できんな」
「君だって似たようなものだろう」
「いや、俺はお前ほど量作ってねぇから。よくまぁ毎回違うドレスを作れるもんだ」
「時期や体調もだが、ゆめの着たいものを着させて演奏する姿は美しいものだよ」
ずっとゆめの衣装は僕が作っている。毎回新調するのはどうなんだとゆめには言われるが、僕としてはいつだって美しい姿のゆめを見せたいと思っている。
僕の作った衣装を着て、賛美されるゆめ。まるで僕のものだと伝えるにはぴったりな表現方法だろう?