第36章 狐の婿入り
主「ンはっ……んんっ……っ」
小狐丸「ぬし様……っ…この、小狐にも…っ」
離してはくれない腕、逃してはくれない唇。
ぼやける意識の中、私は彼の後頭部に手を添えた。
主「好き…に……して…」
小狐丸「……っ!」
私の言葉を耳にした瞬間、漸く唇が離れた。
しかし、口の中全体に甘い痺れが熱を残していた。
まるで距離を置くかの様に離れてしまった小狐丸。振り向くと、苦しげに顔を顰めて自らの服の胸元を握り締める小狐丸が見えた。
どうしたの、何処か痛いの?まだ、何か辛い事があるの?
私に…何か出来る?
主「…好き…だよ、小狐丸。小狐丸がして欲しい事なら…何でも、してあげるから…」
身体を反転させて、彼に向き直る。
すると突然、小狐丸に抱き締められた。
小狐丸「こんな…っ…無理矢理に、ぬし様に触れたい訳では…っ」
顔が見えなくとも、小狐丸の変化には気付いてしまう。
泣きそうな、僅か掠れた苦しそうな声が耳に届く。
それはまるで、必死に言い訳をする子供の様な訴えだった。
主「…うん」
少しでも小狐丸が安心出来れば、その一心で腕を回し彼の背をぽんぽんと撫でる。
小狐丸「三日月殿の…話を聞いてからというものの、胸が…まるで締め付けられる様で…っ」
主「……うん、ごめんね」
小狐丸「私から離れて行ってしまうのでは、と…怖いのです。ただお慕いしているだけで、十分な…筈だったのに…っ」
今にも泣き出しそうな小狐丸が、少し顔を上げ私と目を合わす。
小狐丸の赤い瞳が、まるで今にも燃え尽きそうな炎の様にゆらゆらと不安げに揺れる。
彼が、何とも愛おしい。
彼の胸に額を付ける様に、顔を埋めた。