第4章 名探偵誕生
4話 天女の笑み①
東宮が身罷られたらしい、夕餉の際に黒い帯が配られた
あの騒動を見てから1ヶ月程しか経っていないように思う
(東宮は持ち直す事はできなかったか…流石に名も顔もわから書付は信じてもらえなかったのだろうな)
喪に服す7日間は食事にただでさえ少ない肉類が全くなかった
これでは足りない、と口を尖らす者もいた
端女の食事は一日二度、雑穀を主食に汁物と時折、菜が一品振る舞われる程度である
もともと生家でほとんど食事を与えられなかった娘娘や痩せている大猫にとっては十分な量なのだが、足りないと思う者がほとんどだ
『大猫』
「どうした」
『…おなかいっぱい』
「誰かにくれてやれ」
『ん』
皿に残る夕餉を、残りでも構わなければ…と他の下女に分け与えた
下女と一括にしても色々な者がいる
農民出身や町娘、数は少ないが官の娘もいる
親が官であれば待遇がいい場合もあるが、文字の読み書きのできない者は部屋持ちの妃にはできないため、必然と下働きになるのだ
妃は位ではなく職業で給金を貰う立場だから…
「(溜息)」
『大猫??』
「ん?あ、いや、何でもないよ」
『…梨花妃、だいじょうぶかな』
「さあな…私たち端女の警告じゃ何の意味もなかったな…」
あの日、言い争う二人を見て簡単な文を石楠花の枝に結い、二人の妃のもとへこっそりと大猫と手分けして置いてきたのだ
端女だと知っていようとなかろうとあのような警告を信じるとは思えなかったが…
喪が明け、黒い帯を見かけなくなった頃、玉葉妃の噂を聞いた
東宮を失い、傷心の帝は、生き残ったり公主を慈しんでいるらしい
帝が同じく我が子を失った梨花妃のもとに通う話は聞こえてこない
…東宮を失った梨花妃は、大輪の薔薇と言われた頃の面影もない程に憔悴仕切っているらしい
「仕事するよ」
『ん』
大猫が汁の残りを飲み干し食器を片付けるのを待ち、二人で次の仕事場へと向かった