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薬屋の譫言

第4章 名探偵誕生


一話 猫猫

(大猫がいない、つまらない)
曇天を見上げながらため息をついた
ここは王都の中でも、最も美しくきらびやかな世界であり、最も私から遠い世界だった
(もうあれから三ヶ月、羅門大叔はちゃんとご飯食べているのだろうか…)
大猫と羅門大叔に森で拾われて早6年
いつものように大猫と薬草を探しに森に出かけてみれば、出会ったのは村人その壱、その弐、その参という名の人さらいだった
全く強大で迷惑極まりない結婚活動、略して婚活、宮廷の女狩りである
給金はもらえるようで、二年ほど働けば市井に戻れなくもないらしい
大猫や大叔に拾われ、幼いながら薬の知識を身につけ薬師見習いとして生活をしていた身として、今回こうした事に巻き込まれたのは迷惑でしか無い
後宮には一生関わらないと思っていたのだが…思いもよらぬ事が起こる事にそろそろ慣れてきた

後宮は宮廷の中に区分された帝の子を成すための女の園
男子の立ち入りは一切禁止、入れるのは皇帝陛下とかその血縁、あとは宦官と呼ばれる大切なモノを失った元男性のみ
先帝に到底及ばないものの、妃、女官合わせて二千人、宦官を加えると三千人の大所帯である
娘娘はその中で最下層の下女であり、官職も後ろ盾もなく、さらわれて数合わせにされた身ではそれが妥当だろう

(大猫に会えない…)
今日も義姉に会えない不満を持ちつつ、中庭にある石畳の水場に持ってきた籠を置くと、そばの建物の中にある並べられた籠を見る
汚れ物ではなく、日の当たった洗濯済みのものだ
持ち手に掛けられた木札を見て、持ち主のもとへと運ぶ
(梅に壱六…)

『失礼致します、洗濯物をお持ちしました』
「そこに置いといて」
無愛想に返事をするのは、持ち主の妃に仕える部屋付きの侍女だ
礼儀や文字等は大叔や緑青館で教え込まれた為、此処での仕事に役立っている
これで今日の分は終わりだ、と何処かで一息つこうと思っていたのだが

『大猫…!』
「娘娘」
大好きな義姉を見つけて駆け寄る
今日はもう会えないと思っていたからとても嬉しい
下女は大部屋を与えられているが運が悪いことに部屋が別になってしまったのだ
今日一日にあった事など、近況を話し合うこの時間が好きだった
そしてここ数日耳にする噂の話をしたのだった
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