第1章 まず浮気をされた話
「君、名前は?」
『え?あ、泉沙奈です』
「沙奈ね」
烏野高校の入学式は無事に終わり
クラス分けがされた新しい教室は
ザワザワと新入生の会話で賑わっている
私の目の前に座る仏頂面な彼は
「僕は月島、蛍っていうから
まあ好きに呼んでよ」
『けい』と言うらしい
「その本、荒木さんの本でしょ
僕もよくその人の書いた本は読むから
声掛けたかっただけ」
「だからそんな変な顔辞めてよね」
と目を細めながら
私の机に置いていた本を呼び指す
『私そんなに変な顔してた?』
「こいついきなり話しかけてきたなって顔だった」
『え、やだ、うそごめんね』
「冗談だよ」
薄く笑う顔を見て、少しホッとする
案外いい人なのかも
表情が少ないから
てっきり交流とかしない人かと思ったけど
「にしても沙奈
入学早々何かやらかしたりしたの」
『やらかした記憶は無い、けど』
「ふーん、じゃああれは何?」
月島くんが見ている先は人の群れ
これでもかというくらいの人が
廊下にひしめき合っている
「あ!!こっち見た!!新入生!!」
「バカお前怖がっちゃうだろ!」
「へい!そこの新入生!」
「野球部のマネしない!」
口々に叫ばれるマネージャーの勧誘は
どうやら全て私に向けられているようだ
「なるほど、沙奈って人気なんだ」
『そんなんじゃないってば』
「なんか答えてあげた方がいいんじゃない?
そうしないといつまで経っても
マネージャーマネージャーってうるさいよ」
楽しそうにしているところを見るに
彼は少し意地悪なのかもしれない
『あの私、もう入りたい部活決まってて』
でも月島くんの言う通りだろうと
意を決して眉を下げながら謝る私に
「え!どこ!!どこ!!」と先輩方は
口々に野次を飛ばす
『えっと、あの、え〜っと』
ゆっくり部活見学しようかななんて思ってたけど
どうやらそうにもいかなさそうだ
『ね、月島くん何部に入るの』
「なんで僕の入部する部活を聞くのさ」
『いいから!』
早く!と急かす私に観念した月島くんは
「バレー部だけど」
と小さく答えてくれた
『バレー部、バレー部のマネージャーです!』
「は、ちょ、沙奈?!」