第1章 まず浮気をされた話
岩泉side
あれから1年が経つ
当日中学3年だった俺達は無事卒業
青葉城西高校への進学も決まった
沙奈と及川が別れた話は瞬く間に広がり
色めき立つ声が今度は3ヶ月は止まらなかった
妹のように沙奈を
可愛がっていた花巻は
当時熱を出した程だったし
男共に声をかけられる沙奈を見て
及川は悲しそうに目を伏せていた
及川と笹川は不思議なことに付き合う様子は無く
俺と及川の気まずい雰囲気も
『私が1人で教室に入ったのは
はじめ先輩と徹先輩の仲を裂きたくなかったからです
だから、せめて、前と同じ関係でいてください』
という沙奈の一言から徐々に元に戻っていった
俺達の恋愛模様の戯れ言は
どうしたってこの話に戻らないといけねえ
俺はいつまで経っても
あの冷えた廊下で響いた及川の声や
あの時に微笑んでいた沙奈の顔を忘れられないだろう
かといって及川が 、
クソ川が、
糞で最低な行為をしたと分かってはいても
どうしてもあの馬鹿を嫌いにはなれなかった
きっと俺も
そして及川や沙奈や、笹川でさえも
色んな気持ちを持っていたんだと思う
そんな複雑な気持ちが交錯した中学時代だった
まだ餓鬼だった俺は
正解を見つけることなんて出来なかったから
ただ時間の流れに身を任せて
沙奈と及川が完全に離れる
〝 及川の卒業 〟
という日を今か今かと待ち望んだ
卒業式
筒に入った卒業証書を片手に
やっといろんな奴に平穏が訪れるんだと
このざわめきから解放されるんだと
そう、信じていた
だがまだ俺達の恋愛模様は
終わってなんていなかったんだ
泉 沙奈
どうしようもなく美しい彼女に
俺や、俺達や、あの烏共や猫共も巻き込まれていく
高校3年生になったあの1年間を
俺はずっと忘れられないだろう