第1章 まず浮気をされた話
岩泉side
肩にトンと沙奈がぶつかった
そのくらい俺達は急に
本能で、体が停止していた
「だって徹ったら
そんなこと言って泉さんと別れないんだもん」
あの及川より甘ったるい女の声が
俺達が入ろうとしていた教室から響く
ッ .. と沙奈が後ろで息を呑むのが分かった
「来月には別れるよ
記念日までは付き合っててあげないとね
校内でさらし者にされちゃうの可哀想だし」
「そんなこと言って、
先月だって来月には〜って言ってたもぉん」
「も〜怒んないの!
美優はかわいいね .. 」
そこからピタリと止んだ2人の声に
俺はおおよその2人の行動の想像はできた
思考も停止
行動も停止
そんくらい頭の中で追いつかないこの現状
それは後ろにいる沙奈も同じだったんだろう
「ん .. 徹 .. 」
「ッ 、美優 ン .. ふ 」
2人の生々しいリップ音と同時に
キュと俺の制服が引っ張られた
俺はその時どんな顔をしていただろうか
多分相当マヌケな顔だったんだろう
振り返ると
沙奈は笑ってた
ただ静かに笑ってた
「ッ .. ! 」
その優しい顔が何だか辛くて
沙奈の名前を呼びそうになったが
沙奈は只静かに、首を横に振っている
そして
2人がいる教室の扉に手をかけた