第17章 一部・暗雲
広い部屋に蝋燭一本。灯りはたったそれだけの闇に包まれる薄暗い部屋。趣味が良いとは言えない物々に囲まれながら部屋の中に居るのは三つの影。一人は椅子に腰掛け肘置きに肘を付く。
「お帰り。で?何か収穫はあったの?」
「あったさ。そりゃもう特大の」
「………」
「貴方達を拾って五年近く経つかしら?あの昏睡状態からよく回復したものだわ」
椅子に腰掛ける男はニヒルな笑みを浮かべる。
「しかしまぁ…貴方達の探し人と私の標的が同じなのは奇妙な偶然ね。もっと早く知ってたらちゃんと私が手を打ったのに」
「四年前はボコボコ、二年前は邪魔された奴が偉そうな事言ってんじゃねーよ」
背の高いガタイのいい男が吐き捨てる様に言うと椅子に座る男は態とらしく肩を竦める仕草を見せる。
「彼女の居場所は知ってる。でもこの数年、一度もそこに辿り着いた事がない」
「何らかの条件を付けた結界術でしょう。あの一族は結界術も得意だから」
スラリとした細身の男が解説する様に言う。
「居場所、教えろよ。俺達が行ってくる」
「出来るの?あの子とても強い上に守られてるのよ?」
「てめぇと一緒にすんじゃねーよ。アイツの事は誰よりも俺達が一番知ってる」
「これだけ月日が経ってれば知らない事も増えてそうですけどね」
「おい、それ言うんじゃねぇ」
※※※
「この山脈一帯の何処かって…大雑把だなぁ」
「仕方無いよ。あの人も辿り着いた事が無いって言ってたから」
茜色に染まる空を見上げながら気怠そうに地面に座り込むガタイのいい男の肩を細身の男が慰める様に肩を叩く。
「兄者は余裕だよなぁ…憎しみとか無いのかよ」
「無いよ。寧ろあの子の方が俺達を憎んでる」
「そりゃ…そうだけど…辛うじて生き延びたが沈めかけられたんだ…俺は憎い」
「………だけど俺達にはあの子の…あのお方の力が必要だ」
「…分かってるっつーの」
重たい腰を上げると大きく一歩、踏み出した。
※※※
-カッ-
-カカッ-
紙で描かれた的を庭の木に貼り付けて苦無や手裏剣を投げるトシは縁側に足を放り投げてブラブラさせている。その投げられた苦無や手裏剣をマツは引き抜いて回収し此方まで持ってくる。
「次はミツ兄の番だよ」
「おう…」