第11章 零部・前兆と予感
パシャっと湯が弾ける音が聞こえる。そろそろ上がるのだろうと思い自分も湯から上がって着流しを身に纏う。
「治療法は…無いのか?」
『………』
沈黙は肯定。
暖簾をくぐって秘湯から出ると既に入口の前にあるベンチに腰掛けるチヅルが居た。相変わらず月を見上げている。同じ様に隣に腰掛けて月を見上げると今夜は満月だと言う事に気が付く。
『そう言えばイタチさんも寝てないよね』
「そんな事は…」
『今日は貴方が休む番』
グイッと引っ張られたかと思うと後頭部に柔らかい感触と星空を背景に微笑するチヅル。
「おい…」
『休んで。医者の言う事は絶対』
凶悪な、お決まりの台詞だった。
※※※
膝に乗っかる重みが心地良い。
今夜の月は一際明るいなーとか瞬く星々が綺麗だなーとか、その星々を適当に繋いで空にお絵描きしてみたりとぼんやりとした時間を過ごす。
『………痛い』
ずっと空を見上げっ放しも首が痛くなって来て疲れてきたので首を動かすとバキバキと音が鳴る。ふと膝を見る。端正は端正なんだけど女性顔負けの美人。寝顔ですら美人。腹立たしい。
-さらっ-
頬にかかる髪の毛を退かす。髪の毛までサラサラ。
『美人だけど、こうして見るとちょっと可愛…』
-ズキッ-
『っ!?』
突如として襲ってくる昼間と同じ激しい頭痛と眩暈。だけど昼間とは少し違ってほんの少しだけ鮮明に、でも一瞬だけ見えた映像。だとしてもやっぱり何なのか分からない。もう少しハッキリと見せて欲しい。これじゃあ具合が悪くなるだけで何も利益が無い、と思うと同時に予感がした。
『………、』
そっか。そうだよね。
さっき自分で言った言葉が早々に現実になる予感。
『もう直ぐ…行っちゃうんだね』
→to be continued.