第1章 十二支高校野球部マネージャー物語
十二支高校野球部は今日もはるなを見つめている。
が、当の本人はどこ吹く風で、猫のように気ままに学校生活を送っていた。
女子高生にしては珍しくあまり人とつるまないはるなは
独りでご飯を食べ、独りで登下校し、独りで居たい様子。
(猫神様は別として)
だけど、いつも誰かがほっといてくれない。
だから、部活が終わって帰宅しようと
グラウンドを背にして校門へ歩き始めた時
遠くの部室から声をかけられても、振り返らなかった。
「はるなくん!
良かったら…僕の迎えの車に乗っていかないか?」
そう聞こえはしてもそのまま歩いていると
ダッダッダッという足音と風に乗って紅茶の香りがした。
アールグレイだ。
横を見るとまだ、ユニホームのまま、いつもの赤いブルゾンを羽織っただけの牛尾が息を切らせて肩を上下させていた。
「いえ、独りで帰りたいので」
肩に掛けたスポーツバッグを優雅にかけ直してから
牛尾が二コリと笑った。
「よし、わかった。」
ほっとして、ではさようなら。と言おうと口を開きかけた時
タイミング良く スッ、と校門の前に止まった黒い車
メルセデスベンツのドアを牛尾がサッと開けた。
「さ、どうぞ!プリンセス」
車と、素早く後ろに回り込んだ牛尾にはさまれ
はるなの額にタラリと冷や汗が流れた。
(よし、わかったとは…?)
仕方なく車へ乗り込むと牛尾も続き
バタンとドアを閉めた
ガチャと鍵がかかる
「ハハ、安全のため…だよ」
「そ、そうですか」
もはや素直に返してくれないだろうと悟り
はるなは牛尾に付き合うことに決めた。
「どこへ?」ときくと、牛尾は窓の外遠くを見つめてからたっぷり時間をかけて
「はるなくんの望むところならどこへでも…」と言った。
「では、私の家の前まで。今日はテレビを見てゴロゴロしたいので」
牛尾は盛大にハァ、とため息を突き大げさに頭を抱えた
「そんな青春があるか!!はるな、君は女子高生だよ
もっとキャピキャピした方がイイ!!
僕は君の力になりたいんだ。僕にできることなら何でもするよ…そうだ、ちょっと思いついた!」
牛尾の思い付きは全く持って、ちょっとしていないから困る
先日だって、ちょっと食事をしようとプライベートジェットで香港まで飛んだのだ。
はるなはそのおかげで急きょパスポートを取る羽目になったことを思い出した。
