第11章 空いた時間
友達に一言告げ、私のもとに駆け寄る彼。
目の前で息を切らす姿に、ドキドキが止まらない。
「久しぶり…、」
あまりにも早い鼓動が彼に聞こえてしまうのでは、と不安になる。
発言するたびに、心の中で何度" 平常心 "その言葉を唱えただろう。
「…ほんと、久しぶり。
って言っても見たんだ、この間のロケ現場」
彼がああ、という顔をした。
「ごめんね、あの時ファンの子も
いたから気づかないフリした」
「あ、うんん、全然!」
そう、今のはよくできた。ニッコリ笑って彼を見て。
何も気にしてないよ、私は平気だよって、そういうフリ。
でも
本当は全然平気じゃなかった。
わかっていてもやっぱり現実は痛かった。自分が特別じゃないとわかった日、自分が特別だと勘違いしていた日。
「元気、そうだね」
不思議な会話、そんなセリフ彼に言ったことはなかったし、使う場面もなかった。
「うん、元気元気
あ、メールありがとね」
「うん、おめでとう、21歳だね」
「早いよね。
…連絡できなくてごめん」
「大丈夫だよ
テレビ見て元気だって知ってたから全然。
忙しそう、だね」
「うん、おかげさまで」
空いた時間を埋めるように、言葉を詰める。
少しの間が空いて「あ」と言った彼。
「明日って、空いてる?」
「え…?」
突然思いもよらぬ誘いに、思わず動揺が隠せなかった。
「あ、急すぎるよね?」
「う、ううん!…だいじょぶ、大丈夫」
「よかった、実は…、
話したいことがあって」
「あ、え、うん…」
一瞬だけ目を逸らして俯いた彼に、なんだか嫌な予感。
「じゃあ、また連絡する
呼び止めてごめんね、授業頑張って」
そう言って、足早に私の前からいなくなった彼。
話ってなんだろう、
胸のザワつきが引っかかったまま、その後の授業なんて耳に入ってこなかった。