第7章 意識
あれから暫くして「ごめんね」と申し訳なさそうにまた仕事に戻った翔くん。
時間をもて余す私と違って、自分の道を生きる彼。やっぱりお互いの環境は変わったな、なんて自分を見て少し寂しくなる。
「いや、それにしても俺は驚いた」
あれから私達3人は、いつもの居酒屋へと場所を移動して。
ビールを片手に言った三井君の唐突なセリフに「なにが?」と聞き返す私。
「佳奈だよ、佳奈」
三井君の口から出たのは、私に座り焼き鳥を頬張る彼女の名前。
「は?佳奈が何?」
本人も何のことやらさっぱりで、もぐもぐと口を動かすことに夢中だった。
「佳奈がどうかした?
いつも通りの佳奈節きかせてたよ」
「ちょっと主人公名前、聞きづてならない」
2人でじゃれていると、三井君が話を元に戻す。
「お前のことだから連絡先教えろだの、
彼女はいるかだの聞くと思って
俺内心ハラハラしてたから」
三井君の言葉に「ああ、成る程」と納得した。
日頃からあれだけ彼のことを絶賛している彼女。しかしその態度は恋する乙女なんてものではなく、いつもと変わらない彼女だった。いつもの彼女ならもっとアピールしそうなのに。
それにしてもそんなこと、全然気づかなかった。
三井君の観察力に感心する。