第17章 始まった関係
「ほんとに、ありがとう」
家の前について降車際にお礼を告げる。
「今日何時まで?」
「あ、えっと、いつも通り
7時には終わるかな」
「そう、たぶん私もそれくらい」
「う、ん」
それだけ言う私に「わかんない人ですね」と理解力に乏しい私をバカにした。
「待っててもいい?」
「え」
「今日も早く終わりそうだから
あなたの帰り、待っててもいいですか」
帰りを、待つ。
そのフレーズに、二宮さんが犬の着ぐるみを着てお座りしている姿が頭に浮かんだ。
「ふふ」
「え、何?なんで笑ったの」
「ニノくんが待ってるとこ想像したら、
あまりにも…可愛くて」
玄関でお座りして待つ柴犬みたいな姿に、また堪えきれず肩が揺れる。
ずっと黙っていた二宮さんが「…へえ」と言葉を漏らした。
「いい子にしてたらご褒美頂戴よ?
ご主人様」
「ご、褒美…、」
考え込む私にふふ、と笑って。
「じゃ、仕事頑張りなさいよハニー」
そう言って、バタンと助手席の扉を閉めてくれた。
昨日は大切な人を思って切なそうな顔を見せて、今日は誰もが堕ちちゃいそうなその意地悪な笑顔を向けて、コロコロ表情の変わる彼はやっぱり人を弄ぶ天才だと思う。