第2章 仮初
一人は十代後半くらいの青年。赤い髪とガタイのよい体付きで、砂色のトレンチコートを着ていた。
そしてもう一人はまだ10歳位の少女。恐らく自分とそう歳は変わらないだろう。
銀髪に金色の瞳を持つ美少女だ。着ているものからして、佳い家の出である事は明白だ。
自分でも分からないが、何故かその決して深い仲には見えない二人が妙に目に焼き付いた。
ちらりと、少女が後ろを振り返る。
一瞬だけーーーー目が合った、気がした。
少女は目が合った事に頰を赤らめつつにっこりとはにかむように笑ってみせた。
瞬きした瞬間にはもう、二人の影は群衆の中に消えていた。
何故だろう。今の二人ーーきっとまた、何処かで逢う。
そんな「予感」がするーー
太宰はそう考え、ふとそんな馬鹿げた事を考えた自分を心中で嘲笑した。
瞬きをもう一度した後には、彼の表情は元の無表情に戻っていた。
そしてこの日も、ヨコハマの夜は更けていくのであったーーー