第7章 旅行
「なんですかコレは!」
ゆっくりゆっくり、上昇して動くのだ。景色がのぼる。
昼食後。先生が乗りたいモノがあると言うから従ったが、なんだコレは。
もっと迫力が欲しい。爽快に突き抜ける快感が欲しい。こんなのんびり登るモノなど…!
「あ?ただの観覧車だ。たまには、ゆっくり景色を楽しむのも遊園地で遊ぶ醍醐味だろ」
田中先生は足組をして窓に肘をつけて景色を眺めた。絵になるとはいまを言う。
「確かに……そうですね」
いま。プロカメラマンがいれば即連写だろうな。格好良い先生。観覧車の窓から大きな海原と長い海峡大橋が見えて、キラキラと水面が輝いていた。
「ーー久しぶりかもな。学校のことを忘れてのんびり過ごす日は」
「そうですね。先生、旅行に連れて来てくれてありがとうございます。凄くはしゃいでしまってますね、わたし。青春なんて皆無だったので」
わたしは高校生活を美術で過ごした。そのおかげで、美大に進学できる。将来は先生になりたい。その夢に一歩近づいた。
「……市川、水族館もあとで行こうな」
田中先生は目を細めてわたしを見て優しく微笑む。それは格別で。だれにも負けないぐらい素敵で。いま。わたしは願った。わたし以外に、この特別な笑顔がむきませんように。と。
「市川、ほら、天辺だぞ」
となりに座る田中先生は
わたしの頬に手のひらを添える。
優しい手のひらに
ドキドキと胸が高鳴る。
「さっきの言葉、俺にとって、これ以上ない言葉だった。元気出た。サンキュな」
傾けた優しい顔が近づく。
そっと唇が重なる。
カップルや家族が乗る観覧車。
わたしと先生が側から見たら、カップルみたいに見えていたら嬉しい。
「市川……市川……」
先生は、何度もわたしの名前を口にして
甘いキスをしてくれた。