第5章 奴隷として
「先生?どこに行くんですか?」
仕事が終わったと、車に乗せられた。
わたしは、不思議に思う。
今日はつくづく休みで良かった。万が一、誰かに見られたら…八つ裂きに……ひぃ!寒気がするよ。
助手席に座ってるんだけど、マズイよね。制服だし……。ちらりと運転する田中先生を見た。なんか楽しそう。
「ねえ、田中先生?聞いてる?」
「ああ、聞いてるぜ。まあ、黙って乗ってろよ」と先生はアクセルを踏む。
「……? は、はあ、わかりました」
どこに向かうのだろう。
車の時計は午後5時30分を示した。
冬になると日が落ちるのが早い。
もう薄暗くなっている。
「親には連絡したか?」
「はい、ごはん食べて帰るって」
「なら、時間はたっぷりあるな」
と、車を停車させた。どこかの駐車場である。エンジンを切った先生は、ドアを開けて外に出た。
「ほら、おりろよ」
「は、はい」
車から出たわたしは田中先生のとなりに歩いた。相変わらず黒のコートが似合ってカッコいい。スマートだ。ダッフルコートで隣を歩くわたしは、不釣り合いだろうな。
どんな人が先生の
お嫁さんになるんだろう。
トン、と歩道に出て歩くとき、先生の指が当たった。つなぎたい。そっと手を触ろうとしたけれど、わたしは手を引っ込めた。
人通りだ。
ガヤガヤ騒がしい人混みの中を
先生と歩いている。
もしも、誰かに田中先生といるところを見られたら問題だ。ましてや、手を繋いでいたところを見られたら、先生は大変な事になってしまう。
「…市川、どうした?黙っちまって」
「あ、いえ、手が」
繋ぎたかったんです。
「寒いなあって思って、やっぱり冬は寒いですね。イルミネーションも沢山飾られていますね」
口をつぐんで、笑顔で話題を変えた。キラキラ輝く星みたいなイルミネーション。木に飾られて、色とりどりに光り輝いていた。
「本当だな、市川、ここだ入るぞ」