第4章 バイト
「はい、大丈夫ですよ?」
先生は心配症だなあ。バイトで動いていたら、
忘れてたぐらいなのに。
「そうか。無理するなよ。 ところでな、お前さっそく浮気か?」
田中先生の目がお怒りだ。険しい。
「えぇ?浮気!?」一応小声だ。
わたしの頭にハテナマークが飛び交う。
なんのこと!?
「あの関西弁野郎、お前に妙に、馴れ馴れしくないか?」
顎で示す先には仁君がいる。
楽しそうにエリカさんと話す。あれ、私語は禁止だなんて聞いたけど、気のせい??
なんでやねん!
あ、関西弁がうつった。
「いーーえ、違いますよ、わたし指導役だったんです。だからですよ?」
ブスーーと頬を膨らませる。やっぱエリカさん、仁君と仲良くなりたかったんだ。なーんだ。なーんだ。やっぱり!
「ああいう男が、女たらし、というんだ。覚えておけ」
なんて先生は言う。
いやいや、田中先生は女の気配が無さ過ぎるんですよ。今日は珍しく半休取ったようですが、だいたい遅くまで仕事してるじゃないですか。この仕事人間め。
とは、言わず。
「あはははー。はーい」と軽く言った。
すると頭を引き寄せられて、それは、ほんの一瞬だった。誰も気づかないほんの短い間だった。
わたしは唇を奪われていた。
「浮気禁止だ。 ほかの男を見るな。わかったか?」
すぐに唇を離した田中先生は、
何食わぬ顔で立ち上がってコートを着る。わたしは口をパクパクさせていた。
「せ、……せ」
先生……!!
「じゃあな、返事は?」
い、今……き、キス!!
「は、はい…………」
「よろしい。バイト頑張れよ。あと、気をつけて帰れよ」
「は……はい……。ありがとう……ございました……」
呆然としてしまう。ああ、なにするの、この田中先生は……!
なんもなかったように帰る後ろ姿は、やっぱり格好良くて、完璧だった。帰る姿に皆が見惚れて振り返っていた。