第4章 バイト
「じゃあな、俺学校に戻るわ」
ショッピングモール裏口手前で田中先生が、私の肩をポンと軽く叩いた。
「え、……あれ? でも先生……」
今日有休だって……。振り返ったときには、すでに長身の背中を向けて、踵を返していた。
「俺はまだ用事があるんだよ。仕事頑張れよ。無理すんな」
田中先生はそう言って、軽く手を挙げた。歩くのは止めないし振り向いてくれない。
「あ、はい!……がんばり…ます。
って、本当に帰っちゃった…………」
すんなりサヨナラをする先生。まったく後腐れないなあ。面白くない。
目が半眼になる。
口も隠さないで尖らせちゃう。
そりゃあさ、先生も……初めてってわけじゃないって知ってるよ? でもさー、もうちょっと甘い言葉くれたってさー、いや、明日も会うけどさー。あんなに好きって言ってくれたのに……。
「…………はぁ……」溜息が出る。
田中先生の、さっっぱりな後ろ姿を、名残惜しく眺める私。見えなくなるまで見る私。
どちらがハマってしまったのか。
火傷を負うかは一目瞭然。
バカだなあ……私は。
遠く小さくなっていく田中先生の黒のコート。長い足。
すらりと長身で絵になる。モデルさんって言われてもそうかも、って勘違いしてしまうだろうな。
すれ違う女性は、必ず振り返って田中先生をチラ見する。頬を染めたり、目をそらせずに立ち止まって見ている人もいる。
ピロリーン。
ひどい人は、この人みたいに写真を撮る始末だ。撮影したあと、友人らでキャアキャア言ってる。
いや……芸能人じゃない。速攻で抗議したい。
当の本人は、いっさい気にしないで歩いていくけれど。とうとう横に曲がって、姿は見えなくなった。