第5章 愛情
「クオードっ!!!」
私はクオードの元に駆け寄った。
彼は左胸を抑えて苦しそうにしていた。
「待って…いや……待ってよ……。」
クオードが死ぬ。
彼のおこないを見てみれば当たり前のことなのだ。
なのに、私は何故迷う?
こんなことならいっそ……
もうアストルティアのことだなんて知らない。
「ウルタ皇女!私を殺して!こんな結末なら私もいなくなった方……が…。」
自暴自棄になって彼女に泣き叫んでいると、ふわっと温かいものをかんじた。
ああ、クオード……。
こんな惨めな私でも愛してくれるのですか…?
「テレサ。ありがとう。」
自分が死にそうな状況だというのに。
彼は私を落ち着かせようと抱きしめてくれる。
「お前のおかげで、こんな血みどろな人生でも…希望を貰えたんだ。テレサは俺の光だ。」
光…そんなわけはない。
だって、彼を殺したのは私……。
エテーネ王国を救えなかった私が悪いんだ…。
そして彼が時渡りしてしまえば免れるかもしれない罪を…
自らの手で暴いてしまった。
「愛する人なのに……私は……。」
「テレサ。もし俺がエテーネルキューブで時渡りできたとして。……俺は自分の罪を忘れることは出来ない。ならばいっそ。」
“ここで死んで償ってしまいたい”
「お前のおかげだ。…相変わらずお前は正義感が強くて、人を救けられる。」
まさか、感謝されるとは思わなかった。
私はうなづくことしかできなかった。
クオードの肩で泣くことしか出来なかった。
「最後にひとつ。……もし姉さんに出会えた
ら伝えてくれ。俺は時渡りした先で元気にしていると。……あの姉さんのことだ。心配になってしまうだろう。」
そんな…メレアーデに……。
でも、それが最期の彼の願いなら……。
「じゃあな、テレサ……。」
抱きしめていた私を離してクオードは背中から防砂ダムに落ちようとする。
「クオードっ……!」
私は涙を流しながら、彼が落ちていくのを見ていた。
人は死ぬ前がいちばん綺麗な顔をするっていうでしょう?
本当にそれだった。
「クオード…、クオード…愛してる…ずっと…これからも……。」
かすれ声でほとんど聞こえなかったけれど。
彼は私に別れの言葉を伝え、落ちる寸前に言ったんだ。
「テレサ、愛している。」
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fin