第80章 言って※
「待っ・・・何、それ・・・っ」
「見ての通り、手錠だ。勿論、玩具だがな」
ベッドの木枠フレームの一部から取り出されたのは、鎖で繋がれた紛うことなきそれだった。
分厚いと思っていたフレームはどうやら収納スペースになっていたようで。
他にどんな物が入っているのか、今は知りたくも無いが。
・・・いや、そうじゃない。
そもそも。
「どうしてそんなのが、そこに入ってるの・・・!」
「ここがそういう事をする場所だからだろう?」
今更何を言っているのか、とでも言いたげな声色で彼に返されると、ようやく気付くことができた。
寧ろ、どうして普通のホテルだと思い込んでいたのだろう。
お風呂場のやけに大きな鏡も、普通のホテルではあまり見られない装飾も、違和感を感じて気付くには十分な物達があったじゃないか。
「・・・まさか、気付いていなかったのか?」
ここが所謂、ラブホテルだということに。
「だって・・・こういう所、来たことなかったから・・・」
寧ろ、こういう所に彼が出入りしても良いのかとも思い始めて。
いつの間にか互いに向かい合うようにベッドに座ると、少しの沈黙が流れた。
「・・・わざとここに連れ込んだつもりは無い事だけ、伝えさせてもらうからな」
「分かってる・・・!そこは気にしてないから・・・」
沈黙の間、珍しく互いに考えていたことは違ったようで。
別に普通のホテルでもラブホテルでも、彼が居れば私はどこだって構わない。
「ここにも少し用事があったんだ。これも今は詳しく言えないが」
・・・こんな所に、用事?
それは公安としての、だろうか。
そう思ったのは、組織としてなら恐らく言わないだろうから。
だとしても、ここへ来た理由は考えた所でさっぱり分からないけれど。
「・・・今日はやめておくか?」
「嫌・・・!」
変に考え込んで間を作った為、彼を不安にさせてしまったようで。
慌てて彼に詰め寄るように顔を寄せると、僅かに目を丸くしている彼の表情が目に入った。