第74章 そして※
「・・・口、開けて」
私のお願いに、彼はそう返してきて。
静かにその言葉に従い、ゆっくり確認するように口を開けると、そこに食らいつくように勢い良く彼の唇が覆い被さってきた。
「ン、んっ・・・ふ、ぅ・・・んん・・・ッ!」
息を止めるなと言う割には、それを妨げるようなキスで。
食べられてしまいそうなくらい深いそれに、入り切っていた力は逆に強さを失い、弱々しく彼に縋りついた。
「んう、ン・・・っん、ふぁ・・・!」
何度か大きく体を跳ねさせると、あの感覚が一気に襲いかかってきて。
きっと、それは彼も悟っているはずだ。
だから、優しく丁寧な手付きの中で、弱い部分を的確に狙ってきているんだろうから。
「・・・っは、ぁ・・・ッ、れ・・・い・・・」
唇が離れ、視線が絡むと、絶頂が近い事を目と彼の名前で訴えて。
それに対して彼は何も言わないが、それはきっと無言の返事で。
「っあぁ・・・ッ、ん、あ・・・も・・・ッ!」
彼の柔らかい唇が額に優しく落ちた瞬間、全身が快楽に溺れて軽く痙攣を起こした。
そんな中、弱い部分と奥を同時に責められれば、快楽の沼の奥底まで落ちていかないはずがなくて。
「・・・ふ・・・っ、や、ぁ・・・あぁぁぁ・・・ッ!!」
背中を反らせながら甘い声を吐き出しては、彼の手で絶頂を迎えた。
久しぶりのその感覚に全身がドクドクと脈を打ち、ピクピクと数回小さく体を小刻みに震わせて。
「・・・大丈夫か?」
「ん・・・」
ぼんやりとする意識の中、まだ整わない呼吸のまま短く返事をすると、彼は優しい笑顔を向けながら頭を撫でてくれた。
ああ、その笑顔。
それがたまらなく、好き。
「相変わらず、ひなたは嘘が下手だな」
「・・・ごめん」
どの、嘘だろう。
恐らく全部だろうけど。
そう考えながら、とりあえず謝って。
嘘が下手なのでは無く、彼につく嘘が下手なだけなんだと心の中で屁理屈を言いながら、もう一度彼のキスに溺れていった。