第70章 巡遭い
「・・・ちょっと話が」
それは、コナンくんと・・・私にも向けられているようだった。
その表情は先程以上に曇っていて、彼女の言う話が良いもので無い事は察しがついた。
「それじゃあ我々だけでも先に・・・」
「駄目よッ!!」
博士の提案に哀ちゃんがより強く声を荒らげると、場の空気が更に変わったように思えた。
ここまで彼女が取り乱すのには・・・相当な訳があるんだろう。
「待ってて、博士・・・」
「あ、ああ・・・」
最後に力無くそう告げると、博士や子ども達も一緒に、私たちを外へと誘導した。
外に出ると、比較的人気の少ないエリアへと移動して。
博士や子ども達とは通路を挟んだ向かい側にある、少し距離を取ったベンチへと腰掛けると、コナンくんは早々と本題へと入った。
「・・・それで、話って?」
そう哀ちゃんに尋ねるが、少しの間答えが返ってくることは無くて。
コナンくんが急かす様子を見せなかった為、私もそれに従った。
彼女のタイミングで話してくれるのを待って数十秒後、重たそうにゆっくり唇を動かすと、ワントーン下げた声色で話し始めてくれた。
「・・・彼女は・・・組織の人間かもしれない」
「!?」
思ってもみなかった言葉に、一瞬息をすることすら忘れてしまって。
「間違いないのか?」
「絶対にそうとは言いきれないけど・・・貴方も感じたでしょ?」
確かにあれは常人では無理な芸当だけど・・・それだけで判断しても良いものだろうか。
・・・でも、もし仮にそうだったとしたら。
「じゃあ、記憶喪失は嘘・・・ってこと?」
「その可能性もあるわ」
冷静そうに答える哀ちゃんだったが、その手は固く握られ、不安な気持ちが体に現れていた。
見ているだけで、それが移ってくるようで。
「だが何故、俺達に近付くのにそんな芝居をする必要がある?」
「そ、それは・・・」
確かに、コナンくんの言う通りだ。
仮に私達を油断させる為だったとしても・・・記憶喪失のフリをする必要は無いはずで。
・・・そもそも、私達に接触を図ったのだとすると、組織は一体誰を標的としているのか。
シェリーである哀ちゃんは、ミステリートレインでの一件があるから、可能性としては低いかもしれない。
だとしたら、コナンくんか・・・私か。