第66章 善と悪
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「・・・おい」
「・・・・・・?」
誰かが私の体を揺すっている。
声も・・・聞こえた気がする。
その時にやっと、自分が起こされたことに気が付いた。
いつの間に眠ってしまったのだろうか、と重い体を起こすと、目の前に誰かが膝をついている姿がぼんやりと見えた。
「大丈夫か」
「・・・はい・・・」
反射的に返事をして、目を擦った。
段々と状況を理解しつつ、目の前の人物に視線を向けた。
「・・・・・・っ!!」
驚き過ぎて、声も出なかった。
辺りを見回して、事務所の二階だということを再度確認すると、尚更驚いて。
「ど、どうして居るんですか・・・」
目の前にいたのは、零では無く。
「赤井さん、が・・・」
間違い無く、彼だった。
「不用心だから鍵は掛けておいた方が良い」
聞いている質問とは違う答えを返され、やはりどこか沖矢さんのようだと思って。
何も言わず、不服そうな視線を彼に向け続けると、彼は徐ろに立ち上がって小さく鼻で笑った。
「ノックをしても返事が無かったから入らせてもらった」
・・・いや、それでも答えになんてなっていない。
「何か・・・用ですか」
できれば電話で済ませてほしかったが、彼から掛けるのはリスクが大きい。
零が居ないと分かっている時に、会う方が確実だろう。
でも、できれば今は会いたくなかったし、できれば違うところで会いたかったが。
「少し、確認をさせてもらいに来た」
「確認・・・?」
そんな事、されるような案件に心当たりが無い。
彼もまた波土禄道の事を聞きたかったのかと考えていると。
「・・・ちょっ・・・赤井さん・・・!?」
突然彼が右腕を掴み、それを高く上へと上げた。
「は、離してください・・・っ」
引っ張るように腕を引くが、ビクともしない。
力で叶うはずないことは重々承知しているが、それでも抵抗することをやめるのは、違う気がしたから。