第62章 願い事
「一人の人間・・・降谷零として、ひなたを守らせてほしい」
「・・・・・・え・・・?」
彼の言葉が終わったと同時に、固く瞑っていた瞼はいつの間にか開いていて。
数回、彼の言葉を脳内で再生してみるも、上手く頭の中だけでは整理がつかなかった。
いつだったか、同じ言葉を別の形で貰った気もするが。
「ど、どういう・・・」
「公安としてひなたを守るには、私情が入りすぎる。まあ、実際に外で守る時は安室透で守ることになるだろうが・・・」
待って。
とりあえず、つまりは。
「まだ・・・零と居て・・・良いんですか?」
「こっちの台詞だ」
その言葉を聞いて、呼吸の仕方を思い出せた私は・・・単純過ぎるだろうか。
見なくても、声で分かる。
彼の困るような笑顔。
「・・・ひなた」
今度は優しい声で。
やっぱり少し冷たい彼の手が、頬に触れて。
その瞬間、月明かりが彼の顔を僅かに照らした。
綺麗な彼の瞳が、星のようにキラキラ光って。
吸い込まれそうなその瞳に釘付けになった。
「僕と・・・降谷零と、付き合ってほしい」
思ってもみなかった言葉に、一瞬時が止まったようで。
欲しくてたまらなかった言葉。
でも、いざ貰ってみると不安もそれなりにあって。
「だ、大丈夫なんですか・・・?」
私なんかで。
零の傍に居て。
もう本当に危険は無いのか。
「僕はそんな疑問より、答えが欲しい」
・・・そうか、私が要らない心配をしても仕方がない。
自分ではどうする事もできない事もある。
だから。
「よろしく・・・お願いします」
私は、私ができることだけを・・・しよう。
今の私にできることは・・・。
「私を、零の傍に・・・置いてください」
彼の傍に居ること。
たったそれだけ、だけど。
「離れるなよ」
案外それは難しいことだから。
それなりの覚悟が私にも必要なんだと、改めて心に刻んだ。