第61章 悪い事※
「何故、あのような事をしたんですか」
「・・・?」
「何故、赤井秀一を庇ったのかと聞いているんですよ」
鈍っていた思考回路が一瞬で覚めるようだった。
突然のその質問には、質問で返したくなるようなもので。
何故、貴方がそんな事を聞くのか、と。
「・・・庇ってはいけなかったんですか?」
敢えて聞きたかった質問とは別の質問で返して。
あの状況で零が赤井さんを撃ってしまうことは絶対に間違っている。
それだけは分かったから。
正直なところ、体が動いたのは無意識だった。
気付いたら赤井さんの前に飛び出していた。
でもあれは。
「というより、私は赤井さんを庇ったつもりはありませんよ」
「ほう」
そう、あれは。
「私は零を・・・庇ったんです」
彼が赤井秀一を撃ってしまわないように。
ただそれだけの事。
「貴女がそこまで彼に入れ込む理由を知りたいですね」
指で顎をくいっと持ち上げられながら、詰め寄るようにそう言われて。
「好きだからという理由では不十分ですか?」
それはいつだったか私が言われた言葉。
その言葉を挑発的に返せば、一瞬の間の後、吹き出すように笑われて。
「何が可笑しいんですか」
「いえ、失礼」
なんでもありません、と言っている間も漏れ出る笑いが見え隠れする中、それを睨み付ければやっと収まりを見せてきて。
「羨ましいですね、貴女にそこまで愛されるなんて」
優しく髪を撫でるように、大きな手が頭を包んだ。
その行為にどこか安心を覚えてしまったことは、心の奥深くにしまい込んで、気付かないフリをした。
「結ばれることは・・・ないでしょうけどね」
自分で言っておきながら、どこか悲しくなって。
安室透は存在しているけど、実在はしない人物。
彼と結ばれることはあっても、降谷零とは・・・結ばれることはない。
それで良いと割り切っているはずなのに、いつもその事を考えると、心にどこか穴が空くようだった。