第35章 正して※
「・・・一度だけ」
それは、あの家に住んでいる間にかかった費用を、払うから教えてほしいと彼に申し出た時。
彼の分だと言って無理矢理口を塞がれた。
「でも、それもキス・・・だけです・・・」
言い訳になっていないことは分かっていた。
言っていることは本当のことなのに、どこか嘘らしく見えてきて。
「・・・貴女はもう少し、危機感というものも覚えた方が良さそうですね」
それは透さんの言う通りだと思う。
危機感だけでなく、注意力を始め、探偵の助手として・・・沖矢さんやコナンくんの協力者として。
身に付けなければいけないことは沢山ある。
「・・・すみません」
返す言葉もない。
何に対しても中途半端な自分に、心底嫌気がさす。
自分の命がかかっているかもしれない状況なのに、自分の頭の中は透さんのことでいっぱいで。
彼を前にしてはしどろもどろになり、要らぬことを話し、嘘を吐く。
自分一人では何もできないくせに。
「で、でも・・・沖矢さんはそんなに悪い人じゃ・・・っん、う・・・っ!」
言いかけている時にその口は透さんに蓋をされて。
絡みかけてくる舌を体が勝手に受け入れていく。
それどころか、求めるように自分からも絡み合わせていって。
まるで自分の物ではないようにそれは勝手に動いた。
「ん・・・んん・・・っ!」
止まっていた透さんの手が、ゆっくりと進んでくる。
その手は確実に膨らみへと向かっていて。
「んっ・・・!ン、ぅ・・・!」
下着越しに蕾を刺激される。
体は求めていることなのに、手は無意識に透さんの腕を掴んで抵抗を見せていて。
口は隙間なく透さんの唇が張り付いていて、口から空気を取り込むことができない。
でも、鼻から取り入れることもままならなくて。
苦しい。
けれど一瞬でも透さんと離れたくない。
貪欲な思いが自分の首をどんどんと絞めていった。
「ン・・・っん、んぅ!」
下着越しに愛撫されていた胸が、再び露わにされる。
優しく腹部の方を撫で回すように何度も何度も触れられて。
くすぐったく、もどかしいその感覚に体を捩らせた。