第27章 帰り道
まだそうと決まった訳じゃない。
とにかく今は急いで透さんにメールを、と思った瞬間。
「・・・え・・・っ!?」
電話を告げるメロディと共にスマホが突然震えだして。そうびっくりする程のことでもないのに、少し過敏になり過ぎていた神経が異常に反応してしまった。
落としかけたスマホをしっかりと持ち直し、画面を改めて確認した。
安室透、からの着信。
それ以外は有り得ないことなのに、どこか心拍が早まって。
一息呼吸を置いてから、ゆっくりと通話ボタンを押した。
「・・・も、もしも・・・」
『ひなたさんですか・・・!』
あまり聞いたことのない、透さんの緊迫したような声。
いや、最近聞いた・・・最近どころか数時間前。私が事務所に向かっている最中、透さんが迎えに来てくれた時・・・あの時も、どこかそんな雰囲気だった。
『ひなたさん!』
「あっ、す・・・すみません・・・!今・・・帰りました」
透さんの呼びかけにより、やっと電話に集中できて。
『今・・・ですか?』
「は、はい・・・」
この質問の意図はなんだろう。嘘が見破られ、もっと早く帰っているのではという意味なのか、そんなに遠くにという意味なのか。
『・・・体は冷えていませんか』
「え・・・?だ、大丈夫・・・です」
さっきまでの緊迫した声とは一変して、少し落ち着いた様子の声と共に、気遣いの言葉が聞こえてきて。
思わず一瞬戸惑ってしまった。
『無事が確認できて良かったです。ゆっくり休んでください』
「ありがとうございます・・・」
単純に心配しての電話だったのだろうか。今までの流れからしてそんな感じではあるけれど。
『おやすみなさい』
それに一瞬で心も体も温まったような感覚に陥った。
透さんだからそうなったのか、その言葉だからそうなったのかは分からないが、無意識に口元が緩んだ。
「・・・おやすみなさい」
そう返して、名残惜しくも短い会話を終えた。
そのままベッドに体を預けるように体を後ろに倒して、天井の一点を見つめた。
これからどうするべきか、慎重に見極めなければいけない。コナンくんに迷惑がかかっては本末転倒だから。
彼にも一度、改めて話を聞いておかないと・・・。
そう思う中、あっという間に眠りの闇へと意識を連れていかれた。