第117章 安室3
監視カメラの映像に視線を落とし続ける中、連絡用のスマホから着信を告げられて。
『・・・来ました』
視線は動かさないまま徐ろにそれに応答すると、近くで待機していた風見から短く、そう報告を受けた。
鍵を渡している為、来ないという選択肢は彼女の中で無かったとは思うが、少しは・・・考えて動いてくれるだろうか。
「そのままそこで、監視を続けてくれないか」
『了解しました』
電話を切ると、風見から報告を受けた通りに事務所内の監視カメラ映像に、彼女が映し出された。
風見に命じた監視は、彼女に対してだけではない。
組織を含めた、彼女を狙う人間に対してのものでもあった。
警戒する小動物のように、辺りを見回しながら事務所に入ったひなたさんは、壁伝いに手を動かし、ようやく部屋に明かりを灯した。
今日は何をするつもりだろうか。
もし彼女があの資料を探し当てれば・・・こちらもそろそろ動かなければならない。
そう、思っていたが。
「・・・・・・」
彼女はひたすらに、以前資料を隠した際にバラついたそれを、整理するだけで。
約2時間、その作業は続いた。
何かを探しているようにも見えたが、探られて困るような物はない。
・・・彼女自身のデスクに近付かないのは、偶然なのか。
それとも本能的なものなのかは分からないが。
待つことには慣れている、と根気強く画面を見続けていると。
「・・・!」
ようやく、彼女は自分のデスクに近付いて。
そこからとあるファイルを手に取ると、こちらの狙い通りと言うべきか、中を開いて確認を始めた。
「・・・・・・」
ここまで確認すれば、彼女は間違いなく動く。
この様子だと、今すぐにでも。
そう確信すると、スマホからようやく目を離し車へと乗り込み、素早く車を発車させた。
彼女が目を通しているであろう、とある病院へと。