第116章 安室2※
達する瞬間の彼女は酷く妖艶で。
こちらがトラップを仕掛けているはずなのに、仕掛け返されているようだった。
「・・・時間も余裕もありませんし、ひなたさんのここも問題ないようなので」
時間も余裕もないことは、嘘でも何でもなくて。
忍ばせていた避妊具を取り出すと、どこか彼女の表情が強ばった。
持ち歩いていることへの不信感か、ここでする事への不安感からか、何故なのかは分からないが。
バーボンとしての僕には、気にするべきことではない。
「さすがに暑いですね」
いずれにせよ、彼女の気を紛らわせなければならないと考え、テニスウェアを脱いで肌を晒した。
案の定、彼女のような人であれば、瞬時にその事へと意識が向く。
それに、あまりテニスウェアを汗で濡らしては、他の人に不審がられてもいけないから。
脱いだ服を床へと落とすと、彼女の視線に気が付いて。
意外としっかりと捉えるそれに、不審な傷でも残っていただろうか、と脳裏で考えていると。
「・・・透さん、鍛えているんですか・・・?」
ポツリと、本当に彼女の素朴な疑問といったように、尋ねられた。
そんな事が気になっていたのか、と小さく笑いを零すと、答えを選んだ。
「ええ、まあ。探偵は危険なことも多いですし」
勿論、それだけが理由ではないが。
彼女には、その答えが良いだろうという判断で。
「あまり、危ないことはしないでくださいね・・・」
それは彼女も察していることだろうが、それでもそう返事をくれることに、優しさを感じた。
彼女らしい、と言える程見知った仲ではないが。
そう思えるのは、彼女の性格に裏表がハッキリと無いからだろう。
それに、兄のように慕っていた人の死は、彼女に深い傷を残している。
きっとその傷は、敵味方関係なく、彼女に関わる全ての人が深くさせるのだろう。
それは、こんな事をしている僕にも、適用されるようで。
彼女の表情が、それを証明していた。