第115章 番外1※
「・・・背中は、弱いんだ」
「?」
弱い・・・?
でも、今まで何度も彼の背中には触れたことはあったのに、と疑問符をいくつも頭に浮かべた。
そんな私を確認するように、彼は少し顔を上げて。
「ひなたが、誘うような触り方をするから」
「さ・・・!?」
どこか拗ねるような表情で、僅かに瞼を伏せながらそう言う彼に、そんなつもりは無いと大きく首を振った。
「し、してない!!」
「・・・でなければ反応しないさ」
・・・反応。
「ッ・・・」
遅過ぎるそれに気付いた瞬間、彼の反応や真っ赤になった意味も同時に理解してしまい、こちらの方がそれを超える赤さを顔に出してしまって。
「だって・・・傷があったから・・・」
言い訳のように、本当にそんなつもりは無かったんだと目を逸らしながら伝えると、今度は彼の方が小さく首を傾げた。
「傷?」
「背中に傷があったから・・・それが気になって触っただけだよ・・・」
そうしてしまったのも、触れるその手が柔らか過ぎたのも、申し訳なかったと思う。
元々、お風呂場で誘うような言い方をしたのは間違いないが、この件については冤罪だと視線を外すと、彼は数秒後に何故かクスクスと笑いを漏らした。
「ど、どして笑うの・・・っ」
笑うようなことを言った覚えはない、と余裕を取り戻した様子の彼に視線を向け直して。
ようやく笑いを抑えた彼は小さく謝罪の言葉を口にした後、でも・・・と言葉を続けた。
「この傷は、ひなたがつけたものだろ」
「!?」
そう言って、何故か私の肩の傷に口付けを落として。
動揺する私を面白がるように見つめた。
「わ、私・・・?」
いつ、どこで、と彼の腕を掴んで目で問うと、本当に覚えがないのか?とまた一つ笑いを零して。
「ひなたが、必死にしがみついてついたものだ」
「!」
彼の冷たい手が頬に触れたと同時に、記憶が鮮明に蘇ってしまった。
確かにそれは私がつけたもので、間違いがないことを。