第114章 安室1※
「・・・本当はひなたさんとの距離感を保つのに、というのが一番の理由かもしれません」
その妙な気持ちがそうさせたのか、本音が僅かに漏れた。
「私との・・・?」
・・・あまり近付けば、その喪失感は大きくなってしまう。
それは僕にも彼女にも言えることで。
それに。
「これ以上、貴女との距離を縮めてしまうと何をしてしまうか分かりませんから」
ソファーに体を預け、息を吐くように天を仰ぎながらそう言ってみて。
これは非情にも彼女をその気にさせる言葉ではあったが、嘘でもない。
気持ちを吐いてしまったことは半分後悔しているが、こうなってしまえば利用するしかない。
良くないとは分かっている。
けれど、そうでもしないと。
理由が、ないと。
私情で彼女に近付き過ぎてしまう。
「と、透さん・・・!」
もう既に私情で動き過ぎている気もするが、と自分の中で気持ちを片付けていると、彼女から意を決したような声色で呼ばれて。
どうしたのかと目を見開いて彼女に視線を向けると、声色通りの様子でこちらを見る彼女の姿があった。
けれど、そこから彼女の返答は数秒間無く。
「ど、どうしたんですか・・・?」
急かすようなことはしない方が良いかと思ったけれど。
声を掛けなければこのままになってしまいそうで、思わず尋ねてしまった。
「・・・・・・っ」
そのすぐ後だった。
彼女がその場に立ち上がったかと思うと、目の前で仁王立ちになったのは。
何故急にそうし始めたのか。
感情通りの視線を向けていると。
「し、失礼します・・・っ!」
彼女は突然、何かを断って。
疑問符しか出ない僕の肩に手を置いたかと思うと、ソファーに片膝を付き、唇を重ね合わせた。
「・・・・・・」
・・・と、思ったが。
直前でそれは止められてしまって。
これは彼女なりの意地悪なのかと思ってしまった。