第112章 恋愛で※
「いや、勘違いしていた要因は・・・」
私が持っていた傘を、零が徐ろに取りながら視線を合わせて。
「・・・僕の親友のあだ名と、同じだったからだ」
そういえば。
いつだったか、そんな話を聞いた気がする。
だった、という過去形の言葉が酷く寂しくさせて。
「・・・はあ」
「!」
突然、彼は大きなため息を吐くと共に、額を私の肩へと引っつけた。
僅かに掛かる重みが、愛おしくも反省の重みのようにかんじてしまって。
「れ・・・」
「ひなたと呼ばれていることも、過去のひなたを知っていることも、僕よりも先にひなたと出会っていることも・・・」
目を見て謝りたい。
だからその顔を上げようとしたけれど。
「彼がひなたへ、本当に大切に接していたことも」
彼の口からは、どんどんと言葉が溢れ出てきて。
「ひなたが彼の前で涙を見せたことも」
前にも、こういう事があった。
全て、彼の本音が零れ落ちる時が。
「・・・全部、苛立った原因だ」
今、それを言っている彼の表情は見えないけれど。
見せたくないのだろうな。
「僕よりも彼の方が幸せにできたのではないかと、少し弱気になった」
私にとっては、弱気にさせてしまった、と言いたい所だ。
昔に比べれば多少は増えているつもりだったけど。
まだまだ、彼への愛情表現は足りないようで。
「けど、決意もした」
そう静かに反省をしていると、零は私の肩へと置いていた頭を上げ、再び視線を合わせた。
「必ず僕が、彼よりもひなたを幸せにする、と」
その目は、いつものように綺麗な瞳で。
私を真っ直ぐ見つめていたけれど。
「・・・・・・」
今にも目から何かが零れ落ちそうな程、キラキラと輝いていて。
その瞳に吸い込まれてしまいそうになるほど、綺麗で思わず見入ってしまった。