第108章 零まで※
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その日の夕方、ハロくんの散歩を終えて家に帰り、夕食もお風呂も済ませ、あとは寝るだけ。
寝支度も終え、あとは布団に入れば良いのだけれど。
「・・・ひなた?」
「あ、えっと・・・」
妙に、緊張してしまって。
変わらず、彼の部屋にはシングルベッド一つしかなく。
そこにはもう、私が来るのを待っている零がいて。
一年前のあの日まで、何の躊躇もなく隣で寝ていたのだと思うと、あの時の自分は今よりもっと図太かったのだなと痛感する。
「ご、ごめん・・・っ、ちょっと夜風に当たってくる・・・」
「今からか?風邪を引くぞ」
ベッドの前に立ち尽くしていた体をくるりと回し、玄関の方へと足を進めて。
「大丈夫、すぐに戻るから。零は先に寝てて」
彼が先に寝るとは思えないが。
とりあえず今は、この動機を少しでもおさめたかったから。
本当に少しだけ、夜風に当たるつもりだったのだけど。
「ひなた」
靴を履く間も無い。
玄関前で零に手を掴まれると、僅かにそれを引いてみせた。
「・・・ひなたが嫌なら何もしないから、安心してくれ。隣が嫌なら僕は床で・・・」
「ちが・・・っ、そうじゃなくて・・・!」
どこかハロくんと重なるような表情で俯きながら、私の手を握って。
その手を握り返すように片手を重ねながら否定すると、こちらも自然と視線が落ちた。
「き、緊張・・・で・・・」
いつもは流れでそういう雰囲気になっていたけれど。
今日は、違う。
もう、決まっているようなものだったから。
・・・自分で言ったことなのに、今更怖気付くなんて。
「恥ずかしい・・・だけ・・・」
情けない。
数日前の自分の行動を思い出しただけで、顔から火が出てしまいそうだ。
「・・・あまり可愛いことをしないでくれ」
「え・・・」
熱くなった顔を俯かせては、彼の手を握る力を強めると、彼が何かをポツリと呟いて。
何を言ったのか聞き返そうと思った、が。
気付いた時にはもう、私の体は彼の手によって抱きかかえられていた。