第105章 意図的
「・・・ひなた、落ち着いて聞いてくれるか」
気持ちがふわふわとどっちつかずになる中、彼から意識を引き戻されるように、そう言われて。
あまり良い話でないことは分かる。
手をキュッと握り締め、冷や汗が一筋頬を流れるのを感じた、その瞬間だった。
「きゃ・・・ッ!?」
大きな破裂音と共に、突然バランス感覚を失った零の車が大きく揺れて。
右へ左へと蛇行するように進んでは、車内で同じように体が揺らされた。
「チッ・・・!」
キュルキュルとタイヤが滑る音が耳を刺すように聞こえてくる。
必死にバランスをとろうとするが、言うことを聞かなくなっている車は暫く暴走を続けた。
それでも何とか車を止めると、彼はすぐに後ろを振り返って。
「ひなたっ、大丈夫か・・・!?」
「う、うん・・・」
多少あちこち打ったものの、特に怪我をしたわけではない。
打ってしまった頭を擦りながら崩れた体勢から体を起こすと、心配そうにこちらを見つめる零の表情が見えた。
「どっちだ・・・っ」
私の無事を確認すると、一瞬安心したような表情をしたのも束の間、彼は素早く外を見ながらそう呟いて。
どっちとは、どういう意味だろう。
「風見か?すぐに下まで降りてきてくれ。タイヤを潰された」
それでも彼は比較的冷静に、イヤホンから風見さんに連絡を取った。
タイヤ・・・そうか。
パンクしてスリップしたのか。
さっきの破裂音は、タイヤが破裂した音で。
ただパンクの理由によっては、これはかなりマズイのでは。
「ひなた、悪いが・・・」
話は後で、とでも言うのだろう。
そう勝手に理解していると、私達の乗る車の横へ僅かに見慣れた車が止められた。
「!」
それに目をやれば、向こうの車の窓がゆっくり開いて。
車が目に入った時からそこに誰が乗っているかなんて分かっていたのに。
「・・・赤井、さん・・・」
姿を確認すれば心臓は更に早く脈打ち、つい先程メールで言われた取引のことも、一気に現実味を帯びた気がした。