第102章 ずっと
掴んだものの、その手から服はスルリと抜けて。
闇に溶けていくように、消えていった。
「ーーーーー」
行かないで、と言ったはずだったのに。
・・・声が、出ない。
何度試しても出なくて。
その内に、何となく察した。
そうか、夢の中だから出ないのか、と。
反対に、夢の中くらい思い通りにさせてくれても良いのに、とも。
「目が覚めたか」
「・・・・・・」
そんな真っ暗闇に居たはずなのに。
いつの間にか私の目は、どこかの天井を写していて。
まだやけにふわふわしているせいか、確かに目覚めているのに、そういう感覚は一切無かった。
「とりあえず薬を飲むと良い」
夢と現実の狭間で揺らいでいると、誰かの声が聞こえて。
・・・そういえば。
さっきから声が聞こえる気がする。
その声の方へと目を向ければ、ぼんやりと何かを捉えた。
「・・・・・・」
暑い。
暑くて、苦しくて、痛くて。
それが誰か何て、考えられなくて。
「大丈夫か」
そう問われながら、頬にその誰かの手が触れた。
「・・・・・・」
冷たく感じるのはきっと、自分が熱過ぎるからで。
「無理をしていたんだろ。暫くはゆっくり休め」
そう言って目の前の人物がどこかに行こうとしたから。
途端に、何故か怖くなって。
夢の中と同じように、服を掴んだ。
「・・・どうした」
その瞬間、ふわりと感じた香りが記憶をくすぐった。
・・・これは、煙草の匂いだ。
「・・・っ」
それに気付いた瞬間、掴んでいた手をパッと離した。
同時に、上半身が勝手に起き上がった。
目の前にいるのが誰なのか、ここは何処なのか。
ぼんやりとしていた意識も見えていたものも、ハッキリしてしまったから。
「彼と勘違いしたか?」
・・・やはり、沖矢さんだ。
でも声は変えていない。
だから赤井さんと呼ぶべきか。
こういう時に脳を混乱させる事はやめてほしいところではあるが。
「今は寝ていろ。彼には頃合いを見て、自分から連絡した方が良い」
状況はまだ飲み込めていないが、今はお礼が先か。
そう思い口を開いた時、一番大きな体の異変にようやく気付いた。