第94章 強制的
「あの男は、生きている」
一瞬、時間が止まったのかと思った。
沖矢さんが、何を言ってるのか分からなくて。
あの男というのが、頭では分かっているのに。
理解をしたくなくて。
名前は知らないが、言われなくても分かる。
死んだと思っていたあの男。
・・・情報屋が。
生きているなんて。
そんなの、すぐに信じられるはずがない。
「で、でも・・・っ、コナンくんは・・・」
「あれは公安から情報を取ると予想した、君の彼が仕組んだ事だ」
・・・じゃあ、零も。
あの男が生きていることを知っているということ・・・?
「ちょっと待ってください・・・何の為にそんな事・・・」
そもそも、死んだと言われていたのは何だったのか。
何故そんな嘘をつかなければ・・・。
「落ち着け」
落ち着かなくさせたのは一体誰なのか。
そう言い返したい気持ちはグッと堪えて。
大変腹立たしくはあったが、今は彼の言葉通り落ち着いて話を聞かなくてはいけない。
何度か深呼吸を繰り返すと、目の前にあるミルクティーに口をつけて。
もう大丈夫だと視線で合図すると、沖矢さんは再び口を開いた。
「奴は身代わりを用意していた。整形で顔を変えた人間を、死体として入れ替えたんだ」
納得はしたくないが、あの男なら・・・やりそうな手口だ。
「・・・何処から嘘の情報なんですか」
「あの男が死んでいるということが、大方な嘘だ」
・・・ということは。
「自殺に見せかけた他殺、というのは本当なんですか」
「ああ、あの男が自分で仕組んだ事だ」
そんなに上手く事が運べるのだろうか。
少なくともあの男は公安に・・・。
「銃口を咥え、発砲。負傷した両手は焼かれていた為、直ぐに判別ができなかった。だが、FBIで採取していたDNAと照合した結果、本人ではない事が確認された」
その結果を、黒だと。
私は零に伝言として伝えたのか。
だからあの時の彼は、あんなにも様子がおかしかったのか。
組織の話もきっと、するつもりでは無かったのかもしれない。
でもこの話をするよりは・・・と、判断したのだろう。
それよりも、その時からこの事実が明らかだった事に、驚きを隠せないが。