第92章 執行人
「・・・はい」
かなり間は空いたが、風見さんは力強く、短く、そう一言だけ返事をした。
ーーー
「如月さんはここで待っていてください。自分が後で送り届けますので」
「・・・分かりました」
何の変哲もない、ただの建物に見える場所に車は停められた。
零を起こし、車から降りる彼らを見送って。
着いて行きたいという雰囲気を出してはみたものの、零からも風見さんからも、ここに居てほしいという圧を無言でかけられた。
それは、あくまでも一般市民の私に、多くを見られたくないという現れだったのだと思う。
仕方なく風見さんの車で大人しく待ちながら、今日最大の気の緩みを覚えた。
「・・・そういえば」
コナンくんは・・・あれからどうしたのだろう。
零が怪我をした理由はまだ分からないが、コナンくんがその時一緒だったのなら・・・彼もまた、怪我をしているのでは。
・・・いや、そうだとしたら零が放っておかないか。
気は緩んでいるが、どこか思考だけは忙しない。
気が緩んでいるせいなのかもしれないけど。
「・・・!」
そんな事を考えている内に、時間はあっという間に過ぎていたようで。
突然ついたルームランプに体が反応すると、風見さんと治療を終えた零が戻ってきた。
来た時と同じように、風見さんが運転席へ、零は後部座席に座る私の隣へと乗り込んだ。
「お待たせしました」
「いえ・・・」
戻ってきて最初に思ったことは、零も一緒なんだ、という事で。
てっきり、ここで離れるものだと思っていたから。
そして次に思ったのは、風見さんの雰囲気の違和感だった。
それを感じると同時に、零にも違和感を感じた。
「・・・・・・」
畏まったような、改まったような。
どこかぎこちなく感じる風見さんと、少しだけ怒りを含んだような零の表情。
それから導き出した、私の推理は。
「風見さん、大丈夫ですか?」
「な、何の事でしょうか」
風見さんが・・・零に、叱られた・・・?