第85章 覚えて※
「っ、あ・・・零・・・」
少し癖のある彼の髪の毛。
それが頬に触れたと思うと、彼の唇が耳に触れて。
「・・・ひなた」
吐息と共に吐かれた名前が艶めかしく、一瞬で体にゾクッという快感を走らせた。
「零・・・ッ」
背中に回した手にグッと力を入れ、無意識に内腿同士を擦り合わせて。
「ひなた」
何度も、何度も。
確かめるように、耳元で名前を囁かれた。
もどかしい、けれどこの上無い幸福感。
ここにいるのだと、離れてやるものかと、回している腕に更に力を込めて、彼を感じた。
「んっ・・・!」
今度は唇で耳を挟むだけ。
相変わらずそこが弱いことを感じながら、段々と荒くなる自分の呼吸に気が付いて。
軽く掛かっている、彼の体重が心地良い。
もっと苦しい程に、抱き締めてほしい。
その震えを私で上塗りできるなら、好きに扱ってほしい。
そんな身勝手な欲望が溢れる中、彼の指が首筋を伝って。
「・・・っ、ぁ・・・」
どうして擽ったいが快楽に変わるのだろう。
そういう場所が性感帯だとは聞いたが、擽ったさが快楽に直結する理由が分からない。
そんな無駄なことを考える余裕はあるけれど、限りなく身体的な余裕は無くて。
「れ、ぃ・・・っ」
キスが欲しい。
そういう事は言わなくても互いで分かるのに。
彼も私がそうは言わなくても、分かっているはずなのに。
何故か敢えてそれには応えてくれなかった。
「っあぁ・・・!零、っ・・・!」
その代わりなのか、唇だけが触れていた耳に今度は温かく柔らかい彼の舌が這わされて。
まるでそこが口内のように、耳が私の舌のように、絡め合うように動く舌に体をビクビクと反応させた。
「やっ、ぁ・・・んん・・・ッ!」
いつもなら・・・これくらいでやめるのに。
何故かその刺激は続けられた。
「ぃ・・・、零・・・っ!」
静止を求めると共に様子を伺おうとするが、辞められる気配は無くて。
耳を舐められているだけなのに。
気持ちは既に達してしまいそうだった。