第83章 戻ると
「コナンくんのバッジ・・・」
彼が持っていたあの、探偵団バッジの通信音。
すぐ近くから聞こえるはずだが、と手当り次第に手の届く範囲を探していると。
「・・・!」
枕の下から、鳴り続けるそれを見つけて。
ゆっくり手に取っては、一瞬だけ出るかどうか迷った。
でも、出ないという選択肢が最初から無いことも分かってはいて。
「・・・はい」
静かに通信に応答した。
『目が覚めたようですね』
・・・沖矢さんだ。
どこかそんな気はしていたが、改めて声を聞けば自然と眉間に皺が寄った。
『時間がありませんので、単刀直入に伺います』
このバッジの最大通信距離は、そう遠くないはずだ。
それに、零が離れたタイミングで通信してきたということは、近くで私たちの様子を見ているのだろうか。
『証人保護プログラム、受けられますよね?』
そして彼は本当に単刀直入に、手短にそう問いかけてきて。
・・・こんな状況でも改めて聞いてくるということは、沖矢さんは何が何でもそうしたいということなのか。
「拒否権は無いって言ったの、沖矢さんじゃないですか」
『・・・なるほど』
違和感を感じる返答だった。
きっと私でなくても、そう感じるものだっただろうけど。
『貴女が彼の事を思い出していたら厄介だと思っていましたが、その心配は無さそうですね』
・・・そういうことか。
さっきの質問は、記憶が戻っているかの遠回しの質問だったということで。
でも仮に記憶が戻っていたとして・・・その場合、沖矢さんは私が証人保護プログラムを断ると読んでいたのだろうか。
それ程までに、降谷零という存在に私は左右されていたのだろうか。
「・・・思い出したくなったと言ったら、反対しますよね?」
これは興味本位な質問。
無理なことは、勿論。
『そうですね、少なくとも僕は』
分かっているつもりで。
それでもどこか、忘れたままは嫌だと思っている。
どうするべきか、答えは決まっているのに。
迷いが深まるばかりだった。