第4章 銀魂短編・SS
掌のぬくもり
『おはよう、晋助…くん!』
どうにも呼び捨てにできず言い淀む私を一瞥(いちべつ)するものの、
ぶっきらぼうに挨拶を返す晋助くん。
そう、私達は一応、付き合っている…はずなのである。
その割には一向に距離感が縮まらず、周りにはもてはやされて、
ほとほと締まりがつかない状況ではあるのだが、
本人達、特に晋助くんの方は相変わらず何食わぬ顔をしている。
そんな彼にやきもきして弄ばれているのは自分だけかと、
落胆していれば、聞こえてくるのは小さい舌打ち。
彼の思い通りになっていない証拠なのだろう。
「いい加減、手を繋ぐぐらいの事はしたらどうっスか?!」
痺れを切らして言い放ったまた子の声が廊下に響き渡る。
『そ、それはそうなんだけど…でも…』
「そんなんじゃいつまでたっても進歩ないっス。こうなったら…」
尚も渋る私を尻目に強引に手を引き、晋助くんの手と繋ぎ合わせるまた子ちゃん。
「普通ならこんな風に手を貸す人はいないっスよ。
晋助様と名前だから特別っス」
繋いだ手の感触に驚きや恥ずかしさを隠せない私を見て、
やっと自分のしでかしたことの強引さに気づいたまた子ちゃんは、
絶対幸せになるっスよ!と捨て台詞を吐いて教室から飛び出して行ってしまった。
残された二人はというと、暫くそのまま手を握り合ったまま、
呆然とまた子の去っていったドアを見つめていた。
「名前、おめェは今のままじゃ不満か?」
沈黙を破ったのは晋助の方だった。
それに応えるため、私も口を開く。
『ううん、晋助がしたいようにしていいよ。
それより、私の方こそ不甲斐なくてごめんね』
「ククッ…、ならいい。せいぜい楽しませてくれよ」
無自覚に呼び捨てにしたのが余程嬉しいのか、
喉でクツクツと笑い声をたてながら名前を見つめる晋助に、
恥ずかしさより嬉しさの方が上回りともに笑う名前。
気になって戻ってきたまた子はこっそり覗いていたものの、
思わず大きなため息をついていた。
まだまだ世話がやけそうっス…という呟き声が聞こえたとか。